シッチェス・カタロニア映画祭 最優秀作品賞受賞
他3部門を受賞したSFシチュエーションスリラー
2021年1月に日本公開
「PLATFORM」
経済への痛烈な皮肉


舞台は近未来の縦型刑務所。
構造は公式サイトをご覧になったほうが理解しやすいです。
映画本編は非常にショッキングな映像を多々含むので、苦手は方は視聴をお控えください。
嫌悪感を抱く方が大半かと思いますが…
またストーリーとして、聖書やギリシャ神話の「パンドラの壺」的な内容も含まれています。
原書では壺の最後に残ったものは「エルピス」であり、この映画のラストもそれに近いです。
トリクルダウンは存在しない


嫌悪感の根源は上下構造とカニバリゼーションにあるかと存じます。
これは資本主義の特徴そのもの。
現実社会はパイの奪い合いが常日頃行われています。
劇中では共産主義も皮肉られていますが、主人公が唱える理想論はアベノミクスを思い出す内容です。
トリクルダウンは存在しないですし、資本主義において上層に生きる方々が下々の話を聞くことはありません。
富裕層を支持しても、貧困層の生活は豊かにならないのです。
主人公が持ち込んだ小説「ドン・キホーテ」(空想と現実の区別がつかない)からも、話せばわかると思いこんだ甘さが透けてみえます。
結局最後は武力に頼りますし…
ちなみに映画の内容と妙にシンクロしているのですが、ドン・キホーテの作者ミゲル・デ・セルバンテスは獄中で小説の着想を得たそうです。
神の見えざる手


アダム=スミスは資本主義における自由競争を称え、「神の見えざる手」と国富論にて提唱しました。
市場原理、調整機能のことを指します。
昨今、コロナ禍で飲食店やサービス業の売上が低下する一方、半導体分野などは右肩上がりの売上高となっています。
税務署曰く、コロナ前コロナ後を比較しても税収に大差ないとのこと。
これもまた調整機能の働きによるものです。
裏を返せば、コロナという世界同時パンデミックが起きても、市場や経済という生き物に変化はなかったということになります。
資本主義・共産主義からの脱却


この映画で重要な意味を持つのがメッセージ。
後半「パンナコッタはメッセージ」という文言が、ベートーヴェンの楽章のように繰り返されます。
共産主義も資本主義もうまくいかず、主人公達は「モノ」に伝言を託そうとしたのです。
資本主義的発想ですね。
その穴は世界を変える


記号的に聖書の内容が散りばめられた映画です。
333階層と666の悪魔も記号として出てくるものですが、主人公は666の悪魔に含まれています。
個人的には、聖書がベストセラーとなった理由もよくわかりました。
主人公たちが選択するメッセージも資本主義的な「モノコト」から脱却できていませんが、ラストでその思想が切り替わります。
モノ→コト→〇〇への切り替わり。
ストーリー的には「何も解決しないのでは?」「主人公達も救われないのでは?」と思われるラストですが、イノベーションの大前提は生活への定着と考えると主人公の選択はベターなものだったのかと。
ハッピーエンドはない


映画のテーマ的にそもそもハッピーエンドがない作品。
かなりのゴア表現がありますし、実社会の抱える醜さ、欲深さ、無慈悲さをそのまま映像に落とし込んでしまっています。
相手が社会構造である以上、どう足掻いても主人公たちに未来はありません。
しかし、最優秀作品に選ばれていることから、大勢のビジネスマンに刺さる内容なのではないでしょうか。
「ドン・キホーテ」の主人公は風車を巨大な怪物と空目し挑んだのですが、果たして主人公の敵は何だったのか、そして何と戦ったのでしょうか。


